江田島平八の檄文は、なぜ『葉隠』の骨に刺さるのか
※はじめに。
本稿で扱う「死」「大死」は、自死や無謀を推奨する意味ではない。ここで言う“死”とは、迷い・保身・先延ばし・執着を断つ覚悟として読む。忍びの道もまた、命を粗末にする道ではなく、命の使い方を定める道である。
まずは、男塾塾長「江田島平八」の名言を全文掲げる
皆 いいツラがまえになりおった
だが これだけは肝に銘じておけ男なら幸せになろうなどと思うな
幸せになるのは女と子供だけでいい男なら死ねい
毎日毎日を死ぬ覚悟で生き
安逸に人生を消耗させるないかなる困難にもめげず
死に物狂いで熱く苛烈に生きるのだすなわちそれが三年間
この男塾で学んだ…「青年よ、大死を抱け」の精神である!!
──江田島平八
引用元:『暁!!男塾 -青年よ、大死を抱け-』第25巻
この檄文が、注目を集めるのは分かる。言葉が強いからだ……だけではない。筋が通っている。腹の奥を、真正面から殴ってくる。
そしてわしが震えたのは、その筋が――驚くほど『葉隠』の筋と重なるからだ。
『葉隠』は「死」を、恐怖を超えるための“位置”として置く
『葉隠』を「死ね死ね言う本」とだけ捉えるのは浅い。
あれは死の礼賛ではない。迷いを消すための設計だ。
有名な一句に「武士道とは死ぬことと見つけたり」がある。刺激の強い言い回しだが、要はこうだ。
- 迷いが出る前に、腹を決めておけ
- 腹が決まっていれば、判断は速くなる
- 判断が速ければ、行いが整う
- 行いが整っていれば、不意にも崩れない
忍びの稽古も同じ。
“いざ”というときに青ざめる者は多いが、“いざ”は想像の中では来ない。来るのは現実の一瞬だ。その一瞬に出るのは、気合ではなく平生である。
江田島平八の言葉の中で、わしが一番『葉隠』を嗅いだのはここだ。
「毎日毎日を死ぬ覚悟で生き」
この「毎日毎日」が肝だ。
たった一度の美談を語っているのではない。覚悟を日課にせよと言っている。
「安逸に人生を消耗させるな」——敵は外ではなく、ゆるみだ
忍びの敵は、外にいる者だけではない。
もっと厄介なのは、内側から崩してくるやつだ。
それが安逸である。
安逸は休息と似ているが、まったく別物だ。
休息は明日を立てる。安逸は明日を奪う。
- 稽古を「また今度」にする
- 道具の手入れを「面倒」で済ませる
- 姿勢の崩れを「疲れてるから」で放置する
- 生活の乱れを「忙しい」で正当化する
こういう“小さなゆるみ”が積み上がって、ある日いきなり大崩れする。
『葉隠』が怖がるのも、まさにそこだ。大事は派手な戦場で起きるのではない。平生で決まってしまう。
江田島平八は、それを一行で斬っている。
「安逸に人生を消耗させるな」
これは修行者への叱咤ではない。宣告だ。
安逸は“今の快”と引き換えに、人生の芯を削り取る。だから、斬れ。と。
「男なら幸せになろうなどと思うな」
この部分は、現代の感覚だと引っかかるだろう。
だがわしは、ここを“乱暴な幸福否定”としては読まない。
言いたいのはこうだ。
- 幸せを目的にすると、判断が小さくなる
- 快を旗にすると、風向きで降りる
- 評価を旗にすると、笑われた瞬間に折れる
だから、もっと上位の旗を立てろ。
『葉隠』が据えるのは、義・役目・信念のような、恐怖に勝つための座標だ。
忍びの道に置き換えれば単純である。
- 自分が楽かどうかより、筋を通しているか
- 自分が得するかどうかより、守るべきものに届くか
- 自分が褒められるかどうかより、己の型が崩れていないか
幸せは否定しない。だが、目的にしない。
目的の上位に「役目」を置け。そうすれば、心が揺れたときに戻ってこられる。
忍びの道は、強さを誇る道ではない。
守るための強さに帰着する。
——文章を超えて伝わる「腹の決まり」

この一コマが伝えるのは、怒りでも、勢いでもない。
迷いの無さだ。
『葉隠』が冷たく見える瞬間があるのは、感情が無いからじゃない。
腹が決まっているから、静かに見える。
江田島平八の圧も、同じ場所から出ている。
檄:死に物狂いで生きろ——「大死」を抱け
死に物狂いとは、命を捨てることじゃない。
命を粗末にすることでもない。
死に物狂いとは――
過去でも未来でもなく、今この瞬間を一生懸命、精一杯生きることじゃ。
昨日の失敗に縛られて、今日を腐らせるな。
明日の不安に脅されて、今日の一太刀を鈍らせるな。
今、ここで、やる。
今、ここで、立て直す。
今、ここで、腹を決める。
そうして初めて、命は“使われる”。
大死とは、肉体の死ではない。覚悟の総決算じゃ。
「どう生きるか」を、今日の呼吸に、今日の一歩に、今日の稽古に――
毎日に下ろすための大きな誓いじゃ。
江田島平八が言う。
「毎日毎日を死ぬ覚悟で生き」
ここに尽きる。
一度燃えろ、ではない。
毎日、燃え続けろだ。
忍びの道は地味だ。反復だ。逃げたくなる。
だからこそ、この檄文は『葉隠』と同じ場所を撃ち抜く。
青年よ、大死を抱け。
安逸に人生を消耗させるな。
熱く、苛烈に――ただし命は粗末にせず、覚悟を粗末にするな。
その一点で、日々の姿は変わる。
参考文献・出典
- 引用:『暁!!男塾 -青年よ、大死を抱け-』第25巻(引用箇所:江田島平八の檄文/※一コマ画像は本文中に別途引用表記)
- 参考:奈良本辰也 訳編『現代語で読む 武士道の真髄! 葉隠――人間の「覚悟」と「信念」』三笠書房(知的生きかた文庫)

